言の葉story

年の暮れが意識されるようになると、今抱えていることを今年のうちにまとめられるだろうかと、一抹の不安がよぎる。そんな折、心惹かれるままに『舟を編む』という映画のDVDを借りてしまった。

公開から一年以上が経っているので、既によく知られた映画で、松田龍平さん演じる主人公が「辞書」を制作していくというストーリー。登場人物たちの柔らかく温かい人柄、人と人との関わり合いに余白という「間」が効いていて、とても日本的な、素敵な作品だった。制作している辞書の名は『大渡海』。「辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編んでいく」という意味とのこと。

私は仕事柄、一日に何度も“じしょ”にはお世話になっている。書家にとっての“じしょ”は、「字書」というものがあり、漢字が、篆書(てんしょ)・隷書・草書・行書・楷書という書体で、時代別に表記されている。本格的なものはまだ電子書籍化されていないため、写真のようにとにかく厚くて、大きくて、重い。

それはともかくとして、義務教育では学校から推奨されている国語辞書というものがあり、当時は無味乾燥なものに思っていた。それがこの映画を観たことでだいぶ印象が変わった。大型のものなら20万以上の収録単語があり、それだけの数の「事象という断片」が集積されているというのだから、それ自体が「日本」そのもの、という捉え方ができる。

また一つひとつの単語に付けられている「語釈」は、全てが“熟考”されていることにも驚く。例えば「左」という意味が、どう説明されるのかと言えば、<東に向いたとき北にあたる方><時計の針の進む方と逆回りの方><大部分の人が食事のとき茶碗を持つ側>・・・この映画では<数字の“10”の0ではない方>とする。

国語辞書は、自分の言葉に対するイマジネーション力を試すのにうってつけの目からウロコな一時を過ごす「読み物」としても楽しめる。

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秋深し

精錬なる美

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