2013年11月 モンゴル国

CONCEPTⅠ>>

歴史を辿りながら

その国の文字を敬ってもらう

◇日本の美しい文字プロジェクト vol.10 モンゴル_9

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文字にみるアイデンティティー

日本の北海道~樺太南部の緯度に位置する、雄大な自然が広がるモンゴル国。

そのモンゴルの人たちにとっての文字の歴史は、まずチンギス・ハーンのモンゴル帝国時代に“モンゴル文字”が定められました。

それが、中国・清による支配下の時代を経て、1921年の人民革命で旧ソビエト連邦の傘下になったことで、「発音」はモンゴル語のまま、「表記」がロシアのアルファベットである「キリル文字」となりました。

そして1992年に社会主義国家が崩壊すると、民族の誇りを取り戻すかのように、再びモンゴル文字の復活がなされました。隣国とのせめぎ合いが行われてきた大陸の歴史の中で、モンゴルの人々は“自国の文字”が閉ざされた約70年を過ごしてきたのです。

一方、日本はというと、中国から伝来した漢字を、自国で独自に発展させた「平仮名」という文字に合わせて、“和様”という豊潤温柔な日本独自の漢字スタイルを確立させました。それは「御家流」とも呼ばれ、江戸時代までは公式書体として使用されていました。

しかし、明治維新後の近代になると、“唐様”という中国の漢字スタイルへと逆戻りしてしまいました。その背景には、大陸からの印刷機の伝搬による「活字」の普及、西洋文化の流入による「横書き」スタイルの浸透が影響していると考えられます。

このような歴史的な背景がそれぞれの国にあることから、お互いの国の文字と、お互いの伝統文化である書道に敬意をはらうという趣旨によるワークショップと席上揮毫を行いました。

CONCEPTⅡ>>

松尾芭蕉や茶の湯の言葉を題材に

日本の和様の書を知ってもらう

◇日本の美しい文字プロジェクト vol.10 モンゴル_10

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自然と人と文字

まず『モンゴル・日本人材開発センター』において、モンゴルで日本語教育を受けている方やこれから学ぼうとしている方、それぞれに合わせ、中級・初級・初心者という三つのコースを用意して、ワークショップを行いました。

初心者コースは、これから日本語を学びたいという人のクラスで、書道の基本を習得してもらい、自然と共生していた古代の日本人の在り方とモンゴル人の自然に対する意識との共通点などをお話しながら、「

“火”“水”“風”“土”“空”という五つのエレメントを書作してもらいました。

初級コースは、日本語が少し分かる程度のクラスでしたので、書道の基本を習得してもらった後で、中国の漢字のスタイルである“唐様”と日本の漢字のスタイルである“和様”との違いを、一文字ずつ書き比べてもらいました。

中級コースは、普通に日本語で話しても理解出来るほどのクラスでしたので、書道の基本的を習得してもらった後に、“松尾芭蕉の俳句”を四季に合わせて紹介し、〈夏草や兵どもが夢の跡〉の一句を書作してもらいました。また芭蕉の伊勢神宮参拝の話や、“寂”や“無常”などの日本人の思想についての説明も行いました。

日頃から極寒の気候に向き合い生きているモンゴルの人たちの気質にもよるものかもしれませんが、どのクラスも3時間を越えるものでありながら、集中力はとても高く、かつ終始楽しそうに取り組まれていました。

CONCEPTⅢ>>

モンゴル書家ガンバートル先生との共同揮毫により

モンゴルと日本の書道の違いを知ってもらう

◇日本の美しい文字プロジェクト vol.10 モンゴル_11

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文字の「縦書き」文化

『モンゴル国立博物館』において、蒙日初の試みとお聞きしたのですが、『元朝秘史』の一節を題材に、モンゴル書道の大家であるガンバートル先生と日本人の私とで共同揮毫を実施しました。『元朝秘史』はチンギス・ハーンの物語であり、日本の『古事記』、西洋の『聖書』にあたるモンゴルの人たちの心の拠り所となっている書物です。この冒頭の一節を、モンゴル文字と日本の文字で同時に揮毫していきました。

どちらも同じ“縦書き”という共通点を持ちながら、書いていく 方向は、日本の文字は右→左に書き進めるのに対して、 モンゴルの文字は左→右に書き進めるという違いがあります。また日本の漢字仮名交じりの書は多少、左右への運動もありますが、モンゴル文字の書は縦への動きが強く、あまり字幅がないという特徴があります。

そのような違いを実際に見ることで理解知ってもらいながら、どちらにも共通する、〈紙の上は「天」、下は「地」、それを繋ぐのが文字〉という「縦書き文化」を感じてもらえればと思いました。

この席上揮毫を見るために、遠方から博物館に足を運んでくださった方も多いと聞きました。この模様は後日、テレビでも放送されました。

そして大変光栄なことに、揮毫を終えた二つの書は、モンゴル国立博物館の中央に鎮座するチンギス・ハーンの肖像画の横に展示されました。

◇日本の美しい文字プロジェクト vol.10 モンゴル_12 ※画像はクリックすると拡大してご覧頂けます