2011年11月 ロシア

CONCEPTⅠ>>

日本の美意識と精神を感じさせる語句を題材に

日本人の情緒性を感じてもらう

◇ロシア国立図書館 席上揮毫

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「あはれ」という情感

ロシアでは古くは川端康成、最近では村上春樹さんの小説など、意外に数多くの日本文学が愛読されています。村上春樹さんの小説にみられる虚無感漂う世界観を、現代の「あはれ」であると、そのようにも捉えられていて、なかなかの日本通です。なので、そんなロシアの人たちには、改めて日本人の美意識と精神の核心ともいえる部分に触れてもらおうという趣旨で、『ロシア国立図書館』での席上揮毫とワークショップを実施しました。

まず席上揮毫したのは、ロシア語でも翻訳されている、森鴎外の『舞姫』の一節です。

日本人の「死生観」と「刹那の美」

そして日本の風土をより伝えたいという意向から、ワークショツプでは、日本の民族性、土着性が写し出された様々な写真のスライドを見てもらいました。書の題材として取り上げたのは、「桜」という文字と、「仁は愛を主とす」という漢字仮名交じり文です。

「桜」の説明では良寛の〈散る桜  残る桜も散る桜〉という言葉も紹介して、日本人の“死生観”“刹那の美”を、吉田松陰の〈仁は愛を主とす〉という格言では、新渡戸稲造の『武士道』という著書の中で見出されている“キリスト教の教えとの共通点”などについてもお話し、そのような精神や美意識を理解してもらいながら、それぞれの言葉を書作してもらいました。

◇ロシア国立図書館 ワークショップ

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CONCEPTⅡ>>

大正ロマン派の作家の小説の一節や短歌を題材に

「大正ロマン」の美、調和体の美しさを知ってもらう

◇日本の美しい文字プロジェクト vol.7 ロシア_18

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ロシアと日本の共通点

ロシアではもう一つ、“大正ロマン”をサブテーマに置いた一風趣の異なるワークショップも行いました。それは私自身、事前にロシアの歴史について学ばせて頂き、ロシアと日本にある共通点を知ったからです。

それは、日本でも大正時代に西欧のロマン派の影響を受けた“大正ロマン”という文化ムーヴメントが起こりましたが、ロシアにおいても、西欧文化の波が押し寄せていたということにです。時同じく、共に新しい文化を受け入れて、それまで閉ざされた中で育まれてきた伝統文化にそれを融合させたという経緯があります。

大正ロマンの文化は、一見華やかなイメージもありますが、江戸幕府崩壊以降、士農工商ではない新しい個人の生き方の模索による苦悩や葛藤といった、影の部分も見てとることが出来ます。また明治以降の日本は常に戦争をしていたということも忘れてはいけません。こうした光と影について、竹久夢二の“美人画”を紙芝居的に見てもらいながら説明していきました。

古来「和す」「綾す」ことが得意な民族性

またこの時代は、日本語の文章がそれまでの“文語”一辺倒ではなくなり、“口語調の文章”が台頭して、漢字と仮名の割合も仮名の占める割合が増えていったという、日本語の表記体系の変わり目でもありました。

なので、そのような“日本語の文体”についても知って頂く機会になればと思いました。漢字と仮名が交ざった、“漢字仮名交じり文”を、書道では「調和体」とも呼びますが、日本人は“大正ロマン”の文化然り、中国の漢字に自国の平仮名を巧みにブレンドさせたりと、“和す”こと、“綾す”ことが得意な民族です。そのような日本人の気質を、日本語の文体から知理解してもらいたいと考えたのです。

◇ロシア ワークショップ

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書と自分を重ね合わせるように

では実際にどのようなワークショップを行ったのかというと、まず大正時代に活躍した夏目漱石、泉鏡花、芥川龍之介、与謝野晶子、北原白秋などの文豪の小説の一節、和歌、詩などを題材にして、私が事前に“鏡”に書作したものを、アールヌーボー調の装飾が施された額に入れて、会場に展示しました。

それを先に参加者に鑑賞(目習い)してもらいました。何故、鏡に書いたのかと言えば、鏡は、それを見た人自身の姿形を映し出すものだからです。鏡に書かれた文字を自分の身体を見るように、“形状(プロポーション)”として捉えてもらいたいという狙いがありました。また仮名文字に見られる崩しと、正方形に収まるように作られている漢字とが、“漢字仮名交じり文”として、調和しているその美しさを実感してもらいたかったということもありました。

そして、各々のフィーリングで、自分の好きな作品の前に立ってもらい、その作品(鏡)と向かい合い、そこに書かれている文字の形を模倣するという“臨書”(手習い)を行ってもらいました。

手書きの文化を楽しんでもらう

その後は、自分が好きな文様や絵柄、色合いの料紙”を選んでもらい、そこに同じ文面を書作してもらって、最後に桜や水の文様があしらわれた封筒にそれを折り畳んで入れてもらうということまでを、一連の行為として行ってもらいました。

大正時代のサロンのような優雅な空気感漂う中で、「手書きの文化」を楽しんでもらえたのではないかと思っています。

◇日本の美しい文字プロジェクト vol.7 ロシア_28

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