万博・フランスパビリオン参加(後編) 展示編

庭のメジロがかわいらしく鳴いていた春から、最近は肌寒さも感じるようになった。
混乱と渦巻く不安から始まった万博も、残すところあと5日間。
訪れる人の数も、終盤に向かうにつれて大きな上昇カーブを描いている。

先日の前編は、フランスパビリオンの理念と【来館者四百万人突破記念】のセレモニーでの公開揮毫の様子を写真で紹介させて頂いた。今回の後編は、パビリオンの館内と展示頂いた書について少し触れてみようと思う。

まずは記念すべきその日。公開揮毫を行わせて頂いた後、揮毫した記念の書と同様の書がパビリオンのエントランスに掲出された。
この書は、雨のリスクも踏まえて事前に揮毫したものだけれど、時間的な制約の中で書いた3枚のうちの1枚で、公開揮毫の書のように、私にとってはほぼ一発書きに近い。
強さや勢いが先行した書といえると思う。

また一般公開はされていない「プロトコルラウンジ」という、各国の要人に対応する応接スペースには、日仏の国旗、そして欧州旗、パビリオン旗とともに、フランス館のテーマ「愛の讃歌」の書額を設置頂いている。

こちらはわりと時間があるときに書いたものなので、心と手と筆運びがひとつになった筆致に繊細なディテールも表現出来た書になった。そしてこの書は、先のセレモニーの記念カードにも使用されて、カードはジャック・メール館長の手から来館者の手へと渡っていった。

また手を取り合う姿をイメージした〝赤い糸〟、脈打つ身体の〝鼓動〟からはじまるフランス館は、マテリアルや色彩、表現や歴史が、隅々まで深く思索されている空間になっている。
各所にオーギュスト・ロダンの手が象徴的に配されているのが特徴。
「合わさる手」「守りの手」「分かち合う手」「形づくる手」「創造する手」・・・
遊園地やサーカスのように一元的な楽しさが提供されるというより、訪れた人に何かを問いかけたり、メッセージを投げかけてくる、そんな魅力的なパビリオンといえる。

1970年の前万博の頃とは違って、PCやスマホというツールを手に入れた現代の私たちは、インターネットを介して、画面越しに様々な国にも文化にも接しながら、交流を行うこともできる。
でも、世界を知ったフリになって、大切な何かを失ってしまった現代人に、〝ロダンの手〟は、時間とコストと体力をかけて現地に赴き、自分の目と手と足を使って直接〝触れる〟という尊さ、人間の根源的な価値のあり方を再認識させてくれた。
そして、これこそが万博のテーマそのものであることを気づかせてもくれた。

万博・フランスパビリオン参加(前編) 公開揮毫編

紅辰砂(べにしんしゃ)

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