今回の「KENPOKU ART 2016」のインスタレーション作品は、「五介和紙」さんに全面協力を頂き、西ノ内和紙によって制作を行った。
西ノ内和紙は、国と県の無形文化財として指定されている。私が感じているこの紙の印象と言うと、絹のようにつやがあり、肌触りもなめらかで、強い。また薄墨だとにじみが綺麗に出る。
西ノ内和紙の原料である茨城産の楮(こうぞ)は、奥久慈の山麓で栽培されており、ユネスコ無形文化遺産にも登録された、あの本美濃紙の原料としても使用されている。
聞くところによると、この茨城産の楮の苗を、以前、本美濃紙の生産地である岐阜に持ち込んで栽培を試みたところ、気候条件等の違いによって栽培が成功しなかったとのこと。
つまりこの楮が無くなれば、世界遺産の和紙の生産も揺らいでしまう、ということになる。今、この楮を栽培する後継者不足が懸念されている。
こうした現実に迫っている地方の問題にも目を向けて、日本の伝統文化を守っていくということも「KENPOKU ART 2016」の使命と言える。
制作で訪れた現地の人たちとの交流はとても楽しくて、また清々しい自然に触れながら、日頃の孤独極まりない書作活動とは異なる、文字通り“人間らしい”特別なひとときを過ごすことが出来た。