洗心パワースポット 東福寺 編1/3
「パワースポット」というと、なんとなく〝ご利益を授かる〟とか〝エネルギーをチャージしてもらう〟など、何かを得ようとして向かうところ、一般的にはそう思われています。とはいえその一方で、得るのではなくむしろリセットされるように、身心が浄化されてゆくパワースポットがあります。
2020年まで日経リュクス(サイト終了)で連載されていた『洗心パワースポット』。名にし負う清浄なスポットを巡りながら、木下真理子が書家ならではの視線で、古より紡がれてきた日本人の「こころの源泉」を探ってゆきます。
東福寺の仏殿(法堂)と開山堂などを結ぶ橋廊「通天橋(つうてんきょう)」は、紅葉の季節には多い日で1日3万人を超える観光客が訪れるそうです。京都屈指の観光名所ですが、通の人は人出も少なく、静かな境内を散策できる季節に訪れるといいます。私も透き通る緑が一面を覆うこの季節を狙って、訪ねてみました。
かの千利休は紅葉よりも緑葉を好んだとされますが、通天橋の上で足を止め、青もみじの雲海をわたる風に身を委ねると、日頃、自分で自分のことを縛りがちな、そんな束縛感から解放されて、悩みもさっぱりと消えてゆきます。
こうでなければならない、こうしなければならない───そんなふうに既成概念や固定観念で凝り固まった人には、おすすめのスポットです。
スケールが大きく、オープンマインドな禅宗寺院
京都駅にほど近い、東山九条に伽藍(がらん)を構える「慧日山(えにちさん)・東福寺」は、鎌倉時代に九條家によって創建されて以来、長きにわたって“京都最大の禅苑”と言われてきました。
明治時代の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)で縮小される前の旧寺領は、実に12万坪。現在、日本最大の禅寺である妙心寺の、およそ2倍の広さだったそうです。
開山は、円爾弁円(えんにべんえん:聖一 (しょういち) 国師とも)。日本に禅をもたらした栄西の孫弟子にあたる人物です。
栄西といえば、中国から持ち帰った茶の種を、高山寺の明恵(第一回参照)に譲った茶祖としても知られていますが、円爾もまた、中国から持ち帰った茶の種を郷里の静岡に伝えたことから、静岡茶(本山茶)の始祖と言われています。
円爾は1235年、中国(南宋)の朝廷に選定された「五山第一位の径山・萬寿寺(きんざん・まんじゅじ)」へ入山し、無準師範(ぶじゅんしはん)に師事。六年間修行を積みました。
南宋の臨済宗の寺院は、〝閉ざされた世界〟などではなく、むしろ僧侶たちは自由闊達に、文人でもあった科挙官僚などとも交流がありました。
東福寺も、こうした大らかで柔らかな気風を受け継いでいます。