サイトアイコン 書家/書道家 木下真理子

6月の花火


6月の初旬、夜8時にまもなくなろうとしていた。

「緊急事態宣言が明けたら・・・ね」。
年始からこれを合言葉にして、早いもので2021年も既に6月。
宣言下の夜は、いつもシンと静まりかえっている。
今年もこうして過ぎてゆくのだろうかと、そんな思いがよぎったとき。

窓の外からヒューン、バンと、闇夜の空気を軽やかに打つ音が聞こえた。
何だろうと思っていると、その音は、ほどよく一定のリズムで鳴りはじめた。
私はカーテンを開けて外を見た。

薄暗い闇の中、見上げるまでもなく、目の前の煌めきを確認出来た。
絶え間なくというより、一つひとつが現れては消えてゆく。
そんな光景を受け止めるように見つめていると、思いがけないひとときは、
ほんの数分で幻のように終わってしまった。

その夜の花火は、華やかというより厳かという表現がふさわしい気がした。
心躍るというより、心慰めてくれる花火。

はかなさは、どこかの、何かを、うっすらと予感させる。

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