サイトアイコン 書家/書道家 木下真理子

こころの音


昨年春、忽然とあらわれた目に見えぬ驚異のウイルスは、この一年半でその片鱗を垣間見せながら、なお自らを変化させて、今も世の中を覆っている。
4度目の緊急事態宣言は延長となり、更なる延長も囁かれつつ、ワクチンはまだ行き届いていない。

私はというと、3週間かかって、ようやくワクチン接種の予約がとれた。
毎週、月曜日におよそ1週間分のワクチン接種日が公開されてはいるものの、決められた予約開始時間から数分で予約は埋まってしまう。電話とインターネットと同時にアクセスしてもなかなか繋がらないまま予約が埋まってしまう、その繰り返しだった。

暑さも一段落して、今年も長月を迎えた。
いまだ外に繰り出すことが憚られるということもあって、思い切ってアンプを買い替えてみた。
実のところ、今年に入ってアンプの調子は悪かった。
スイッチを押すと数秒で電源が入るのが通常だけれど、数分かかる日もあれば、時間をあけてみても入らない日も。

新しいアンプが届いたその日、さっそく配線を繋いでスイッチを押してみた。
すぐにカチッと電源が入り、ここ数日の雨で重たくなっている空気を軽快に弾ませる。
私の気持ちも雨雲が消えてゆくように、明るく、軽くなった。

長年連れ添った古いアンプは新しいアンプの隣に収納。音が完全に出ないというわけでもないので、まだ置いておこうと思っている。
同じメーカーの少し古いアンプは、どこか懐かしい輝きを音色にして届けてくれた。
それは、野の草花に大気が宿って露となり、陽を浴びて白く光る、そんな喩えがよく似合う音だった。

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