サイトアイコン 書家/書道家 木下真理子

夏のまぼろし

からりと晴れたある午後、体をすっと抜ける肌寒いひと風を感じると、突然の雷雨になりました。

普段からあまり気にして天気予報を見る習慣がないので、そんな時は“雨宿り”をします。以前にポートオブノーツの歌の一節「空に雨が降れば虹が見れるし」について書いたことがありましたが、雨が降らなかったらまったく足を踏み入れることもなかっただろう場所に、偶然に“宿る”こともまた同じようなことが言えるのかもしれません。

夏の雨はそう長くは続かないので、そんなひと時の出来事がまるで幻覚のように感じました。

雨がやんで、すっかり日も落ちたので、場所を移動するために電車に乗りました。そうすると、たまたまBOX席が空いていたので、そこに座り、小さな窓枠にひじをかけて、窓の外を見ました。ホームには人それぞれの日常の一コマが綺麗に映し出されて、電車が走り出すと、ホームも人も少しずつミニチュアのようになり、駅と駅の間では、その街ごとに、ビルや緑や家並みといった姿が雰囲気を変えていきます。

「こんなやみよの のはらのなかを ゆくときは 客車のまどは みんな水族館の窓になる」

宮沢賢治の「青森挽歌」の一節が思い出され、これも夏の夜の移ろいゆく“幻”のようでした。

もう夏休みも残りわずかになりましたが、みなさんはどんな想い出を残しますか―

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