12月29日に発売となる『日経ビジネス』(日経BP)の特集の題字として、「遺言」という文字を書かせて頂いた。ご依頼頂いた時、電話口で「遺言」とお聞きして少しギョッとしてしまったのだが、よくよくお話を伺うと、これは「未来に遺したい言葉」という趣旨の特集であることが分かった。
人生を生きていく上で、人は皆、心に残る言葉というものをそれぞれに持っている。それは自分という人間が、その言葉に触れた瞬間に、悲しみを抱いていれば優しく響き、気が緩んでいたら厳しく叱咤激励されるものかもしれないが、生きていく中で、ここぞという時にその言葉は反芻される。
私は仕事柄、言葉を意識的に捉える機会が多い。意味について熟考しているとも思うが、心に残るような言葉を発した人物が、どんな時に、どんな環境において、何を思考し、どのように生きていたのかと、言葉に内在されている真実を紐解こうとすると、往々にしてその言葉は“逆説”であることに気付く。人に向けられた言葉であっても、その人物自身に向けられているものでもある。今回の題字の下に謳われている「日本の未来へ」。この「日本の未来へ」向けられた言葉は、その言葉を発している人物こそ、誰よりも現在の問題を意識しながら生きていることを示しているのではないか。
個人的には、オノ・ヨーコさんの「夢をもとう!」という言葉が好きだ。これは甘ったるい楽観主義から発せられた言葉ではない。現実という壁に直面し、絶望の中、苦しみを抱えながら生きてきたヨーコさんだからこそ、紡ぎ出された言葉だ。
以前、私が書いた書に、ヨーコさんが〝気〟を入れてくださった。それは白隠の一筆とでも言えるような、スピリチュアルなものだった。言葉には「力」が宿る。それによって人は背中を押され、社会は変わり、未来も作られる。私はその時、それを実感し、書家の役割というものが、炙り出されたような気がした。「夢をもとう!」の書