CONCEPTⅠ>>
日本でも馴染みの楽曲『セレナーデ』を題材に
日本の文字を音で捉えてもらう
♦ 文字の音について
ドイツのヘッセン州にある公立・フランクフルト大学よりお招き頂き、同大学の日本語学科で特別講義を行いました。
デモンストレーションとして、☛奥田良三さん歌唱による『セレナーデ(ド)』(シューベルト作曲/レルシュタープ作詩)という楽曲のレコードをかけ、その歌詞の和訳を揮毫しました。これは「文字」を単純に視覚的側面からだけで捉えるのではなく、“音”としても認識してもらうためです。
次に私が揮毫した文字を目で追いながら、“声”に出して歌ってもらいました。
汝を呼ぶ われの歌
夜を行く 恋人よ 森かげの
われに来たれ
木の葉がささやく 月あかりに
月あかりに
これは恋人を想い、愛の成就を願うという歌ですが、日本の万葉集の恋の和歌を例えに出しながら、古代の日本にあった“言霊(言葉の霊力)の思想”を知ってもらうという解説などを行いました。
揮毫については、墨や紙を使わずに地面に“水”で書き上げましたが、これは“水書”と呼ばれる表現方法です。
声に出す言葉と同じように、気化していきます。
CONCEPTⅡ>>
「万葉仮名」を題材に
日本の古代思想「言霊」を知ってもらう
♦「言霊」は「事霊」であった
『フランクフルト国際ブックフェア』の会場におけるワークショップは、日本から持ち込んだ“絵馬”用の札に、自分の想い(願い)に当てはまる言葉を、声に出しながら書作してもらいました。
また古代日本の、同一音に様々な漢字を当てはめて使用していた“万葉仮名”についても学んでもらいました。
例えば、“ア”という音には、阿、安、足、余、吾、網、嗚呼などの字が当てられていたように、「表意文字」である中国産の漢字が、日本では、はじめはアルファベットのように「表音文字」として使用されていたこと、それが後に平仮名にも繫がっていったということ、また同一音を翻訳的に当てはめる(つまり「表意文字」にしていく)ことも行われていたということなどを解説しました。
そしてこうした万葉仮名を使った和歌が収められているのが『万葉集』ですが、和歌の中には“コト”という音が、「言」=「事」の意味で表されていたことがあるように、〈声に出して発した言葉は、現実の事象に影響を与える(現実になる)〉、つまり「和歌を詠む」という行為が物事を成就させるための方法でもあったのです。このような“言霊思想”がかつて日本にあったということをここでも説明しました。
〈敷島の大和の国は言霊の幸はふ国ぞ真幸くありこそ〉
これは『万葉集』の中の有名な一首です。
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