CONCEPTⅠ>>
日本の美意識と精神を感じさせる格言を題材に
「古の日本の暮らし」を五感で感じてもらう
♦ 語学教育以上に伝えられること
ウクライナ、カザフスタン、ロシアの3ヵ国、4都市における『日本の美しい文字プロジェクト』は、国際交流基金からの要請により実現しました。国際交流基金とは、外務省が所管する独立行政法人の一つで、海外において日本語教育、日本研究、情報提供などを行い、文化交流を通して、日本への理解と友好な関係を築くことを目的に設立された機関です。このプロジェクトにご賛同頂き、日本語教育の一環として、書道を通じた日本文化の紹介を行って欲しいということがご依頼の趣旨でした。
かねてから、私には語学からのアプローチではなく、言葉の意味(精神)と文字の形(美意識)を同時に認識することが可能な“書道”というツールは、日本文化をより深い次元で理解してもらえるものであるという考えがありました。そこで、この3ヵ国のワークショップでは、まさに“日本の美意識と精神”というテーマで行いました。
♦ 日本の風土、古の暮らしに学ぶ
まずウクライナのワークショップでは、次のようなシチュエーションを設けて書道講座を行いました。それは“古の日本の暮らし”をサブ・テーマとし、日本の風土を五感で感じてもらえるようにするというものです。
①入室の際に、穢れを清める意味で手を洗ってもらう(触感)
②ロウソクを灯して、古の暮らしを体感してもらう(視覚)
③香を焚いて、香りを感じてもらう(嗅覚)
④「鹿威し」「風鈴」等、日本的な音を聴いてもらう(聴覚)
⑤抹茶を召し上がってもらう(味覚)
書作の題材としては、日本特有の概念を持つ以下のキーワードを紹介して、それにまつわる諺や言葉を書作してもらいました。
「侘」―諦めは心の養生(“引き算”の美について)
「寂」―枯れ木も山の賑わい(“枯れ”の美、“風狂”について)
「桜」―末の露本の雫(“無常”と“移ろい”について)
「神」―祈らずとても神や守らん(古代の自然観について)
CONCEPTⅡ>>
幕末藩士の格言を題材に
日本の美意識と精神を感じてもらう
♦ 書作品の共同創作を行う
ウクライナの2日目は、アルセナル美術館において、席上揮毫とワークショップを行いました。日本語を勉強している若者をはじめ、画家を志している学生さんや一般の方々が参加されました。
ここでは与謝野晶子の短歌を席上揮毫しました。
またワークショップは、書作の題材として、“吉田松陰の格言”である〈仁は愛を主とす。人を愛する、己れを愛する、同じく仁なり〉を取り上げて行いました。
松陰は幕末の日本において、いわゆる尊皇攘夷派、倒幕派の急先鋒でしたが、この〈自分と他人に平等に愛を与える〉という思想は、〈私利私欲に走らない〉という武士道の本質を突いている言葉です。この言葉から、古来日本人の根底に流れている「結び」の精神性についてを理解してもらえたらと考えました。
そして一人・一文字の担当として、色紙に書いてもらい、参加者全員でその言葉を完成させるというワークショップを行いました。
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この作品は後日、キエフのランゲージ・センターに掲出されたとお聞きしました。それは同年に起こった東日本大震災へのウクライナの人たちの想いがそこにあったのではないかと思いました。
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