初めて文庫本というものにはまったのは、高校二年の時。掌サイズの本のなかにぎっしり詰まった文字を見ながら、よくこの本のなかに物語が入っているなぁ、と思ったのを覚えています。
私の生家には、洗面所に本棚がありました。父が日曜大工で作った、文庫本サイズの四段の棚でした。そこから本を拾っては、お風呂のなかで読んで、ついつい長湯をしていました。
でも、本を読むのが好きだった、というよりも、文庫本を手にした時の感触が好きだった、と言えるでしょうか。今思うと、小さなおもちゃの感覚だったのだと思います。
高校二年の夏、決まって購入した文庫本は、キレイな表紙でパステル調なものでした。毎日一冊、学校帰りに見つける楽しみ――。
堀辰雄の短編集『風立ちぬ』。今でも残っている当時の一冊。“そのうちに、夏が一周りしてやってきた。”(「麦藁帽子」より)
もうすぐ五月。季節は春から夏へ。緑のなかに白のランニングの映える、風の季節の到来です。