タイ・レポート ♯1

今日は先日のタイ王国での活動についてご報告させて頂きたいと思います。タイの現在の状況は、みなさんニュースなどでご存知の通り、反政府デモが続いています。私が滞在していた時もそのような状況はあったのですが、現在ほどではありませんでした。どうか、事態が一日も早く沈静化しますように。

さて、今回のタイ渡航の目的は、3月26日よりバンコクで開催されておりました国際ブックフェアにて、タイ王国のシリントーン王女様の御前揮毫と文化展示ブースでの書作品展示、およびワークショップを開催するということでした。

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今回会場となったのは、首都バンコクの中心地に位置するThe Queen Sirikit National Convention Centerという所だったのですが、地下鉄も近代的な建物もあり、とても発展した街でした。ただ、街の人たちはけしてそれらに合わせている、というふうではなくて、身の丈にあったというか、地に足のついた暮らしの中で、自然体に生きていて、人柄もとても慎ましいという印象を受けました。おそらく仏教を信仰している方が多いということに通じているからだと思います。

ところで、渡航前に私が気になっていたのは、日本との気候の違いでした。実際、タイに入国したその日は、気温が40度近くもあり、大変な暑さとともに、湿気も高く感じました。会場内にはクーラーが効いているとは聞いていましたが、実際にどのくらいの早さで墨が乾くのかが一番の気掛かりでした。一応、速乾性のある墨を用意していきましたが、普段の書作で使用している墨よりも、滲みの多く出るものなので、書の雰囲気も変わってくるという覚悟はしていましたが。

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さて、スケジュールは初日から詰まっていて、

10:30に記者会見に出席

11:15から個別会見も対応。御前揮毫の準備をして

15:00に開会式出席

15:45にシリントーン王女様に作品展示ブースにて解説、その後会場にて御前揮毫・・・となっていました。シリントーン王女様は国民的な人気のある方です。そのため、ご来場の模様は国営放送により、タイ全土に生中継されました。もちろん私が行わせて頂いた御前揮毫や展示ブースでの書の作品解説の模様もです。

それはそれは大変に厳重な規制が敷かれ、当日会場に入れるのは特定のPASSカードを持っている人だけに限られていて、そのカードは金よりも価値があり、プレミアムなものだと後から聞きました。

王女様にお会いさせて頂いた感想は、庶民的といったら語弊があるかもしれませんが、本当に気取らずに自然体な方だという印象でした。タイの皆さんに愛されていることも良く分かりました。日本の書にも大変興味を持たれているとのことです。

今回の揮毫の題材は、村上春樹さんの『ノルウェイの森』を選びました。また文化展示ブースでは以下の4つの作品を選びました。

村上春樹さん『ノルウェイの森』

小川洋子さん『博士が愛した数式』

江國香織さん『ウエハースの椅子』

鈴木光司さん『リング』

これらの作品をそれぞれ、楷書、行草書、隷書と書体を変えて書かせて頂きましたが、題材については、タイの人たちに、現代の日本の文化や思想を感じてもらいたいという考えがありました。

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このような試みが実現出来たのも、日本の主催者である日本書籍出版協会さんと許可を頂きました作家の方々のご協力があってのことです。この場をお借りして、御礼を申し上げます。有難うございました。現地では実際に『リング』の作者、鈴木光司さんにもお会い出来、お話させて頂きました。

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さて、開会式のあった日の翌日は、一般公開される揮毫に移りました。ここでは私が書を書いているところを単に見て頂くだけでは面白くないので、どうせ“公開”ということなら、とことん見て頂こうと、美術鑑賞などでよく使われている単眼鏡で、文字が生まれ落ちていくその瞬間を凝視してもらおうと考えました。これは筆文字によるディティールを見てもらいたいと思ったことと、日本の文字の美しさを見て感じて頂きたいという狙いからです。

漢字から派生した、日本独自の平仮名という文字は、現代の私たちは普通に伝達の道具として使っていますが、その文字の形には日本人の美意識や感性が詰まっています。タイの方たちには、上から下に流れるかのような美しい曲線を描いていく日本の文字を、単眼鏡を覗いて見て頂いたのですが、有難いことに多くの方に驚きを持って受け入れて頂きました。そして、この揮毫は全長16m、約5時間にも及ぶものとなりました。

長くなりましたので、この続きはまた次週にさせて頂きます。