洗心パワースポット 知恩院 編1/3
「パワースポット」というと、なんとなく〝ご利益を授かる〟とか〝エネルギーをチャージしてもらう〟など、何かを得ようとして向かうところ、一般的にはそう思われています。とはいえその一方で、得るのではなくむしろリセットされるように、身心が浄化されてゆくパワースポットがあります。
2020年まで日経リュクス(サイト終了)で連載されていた『洗心パワースポット』。名にし負う清浄なスポットを巡りながら、木下真理子が書家ならではの視線で、古より紡がれてきた日本人の「こころの源泉」を探ってゆきます。
政情不安、地震や飢餓、疫病、鴨長明の『方丈記』にもその仔細が残るように、様々な災いに見舞われた平安末期から鎌倉初期の京都。念仏さえ称えれば、阿弥陀如来の本願の力によって救われる───、法然(ほうねん:1133年 – 1212年)の「専修(せんじゅ)念仏」の教えは、悲痛な人々の救いとなり、親鸞(しんらん:1173年- 1263年)という稀有な存在の影響もあって、民衆の間で急速に広まっていきました。
「華頂山・知恩教院大谷寺(かちょうざん ちおんきょういん おおたにでら)」は、法然が布教を始めた聖地。全国およそ7.000余の浄土宗寺院の総本山ですが、地元の人々からは「ちよいんさん」あるいは「ちおいんさん」と親しみを込めてそう呼ばれ、旅行者も気軽に立ち寄ることができる寺院です。
境内を周回していると、次第に迷いや不安が取り除かれて安らいでゆく知恩院を喩えるなら、人々にそっと寄り添う“慈雨”のようなパワースポットと言えるのかもしれません。
三門をくぐり、迷いの世界から抜け出す
スタート地点となるのが、神宮通に面した国宝の三門。入母屋造本瓦葺(いりもやづくりほんかわらぶき)で、高さ24m、横幅50m、使われている屋根瓦は約7万枚と、日本に現存する木造二重門としては最大級となります。
一般的に寺院の門は、〝山門〟と書きますが、知恩院では〝三門〟としています。
これは、悟りに通じる三境地を表す「空」「無相」「無願」の名前を冠した3つの門で構成されていますが、つまり〝3つの解脱〟を意味しています。確かに観光客で賑わう東山の街中と寺の聖域とを分かつ三門をくぐった途端、あたりの空気が一変するのが分かります。