洗心パワースポット 東福寺 編2/3
南宋を代表する書家の力強い禅林書
円爾は帰国に際して、文化的価値の高い典籍など、千点余りを持ち帰りました。その中には、今日大変貴重な中国南宋代の張即之(ちょうそくし)による額字や金剛経(こんごうきょう)も含まれていました。
即之もまた士大夫(官僚)でした。官歴はそこまでふるわなかったようですが、書に長けたうえに、無準をはじめ禅師たちとの交流から、その書は脱俗的な風を感じさせます。
ただ、当時の中国で即之の書は賛否両論でした。中国では二王(王羲之:おうぎし、王献之:おうけんしの父子)を経た書を正統としていたからです。即之はその典型を守ることを拒否し、むしろ王羲之の書すら認めない、無法さを示しました。
とはいえ、筆先や筆の腹を使い分ける柔らかな筆致には確かな技力がみられ、簡素で力強い造形の中に一本通った気品が感じられます。有名な「方丈」の大字書は、今でも相国寺(京都)など全国の禅院で手本となっています。
禅宗寺院の書は、その場所、建物における〝精神的な象徴〟としての重要性を持つことから、世間一般の看板などとは意味合いが異なります。内省的な探求から導かれた禅のパワーが放たれる破格の書は、時代を越えて、私たちに心の解放と気づきを与えてくれます。こうした「墨蹟(ぼくせき)」と呼ばれる、禅僧が一気呵成に揮毫する書は、東福寺から広まったといっても過言ではありません。