書家の手紙

先日、インターネットで、青山杉雨先生に関する記事を見つけました。青山先生は私のお師匠のお師匠で、昭和の書壇を代表する書家として文化勲章も受賞された大家ですが、先生の書作品ではなく、お手紙の複写が被災地に届けられ、被災地の書家の方の励みとなっているという記事でした。

書道に馴染みのない方は、内容に何か特別なメッセージが記されているために、そのようなことが行われたと思われるかもしれませんが、それは書家の方に送られたということですから、送り主は先生の“筆跡”をお届けしたかったのだと思います。

私も青山先生のごく日常において記されていた“私信”は何度も拝見させて頂いたことがあるのですが、それはやはり先生の書作品と同じように、お手本となるような小さな一文字、一文字においても先生の感性が現れていて勉強になるものでした。

話は少し飛びますが、平安時代には、今でいうファッションのように、書人たちの筆跡が人々の関心の的であり、流麗な筆致に人々は憧れ、こぞってそれを真似て、流行も起こっていたようです。

その背景には、人々が文字を眺めるという行為を楽しんでいたこともあると思います。書家が書く手紙は、ペン字の文字のように画一的なものではなく、かといって読めないというような難解なものでもありません。もちろん、そこには手書きが醸し出す温かみや優しさといったものも漂っていると思うのですが、“意味”ではなく“カタチ”にその精神性は現れていると思います。

書家の手紙

芸術新聞社刊

大阪にて

あるお寺の書

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