「裏を見せ 表を見せて 散るもみじ」という良寛の句があるが、アスファルトに散る紅葉は、人々の心情を吐露しているかのように、鮮やかに色づいた姿が重なり合っている。
夜になり、少し窓を開けると、ひやりとした風が肌をかすめてゆき、耳元にはカチカチと時計の針の音だけが聞こえてくる。
読書の秋。
普段、ゆっくり本を読む場所というと、本屋さんでも、図書館や喫茶店でもなく、私の場合は、仕事の出張などで移動する新幹線の中や宿泊先のホテルの一室であることが多い。日常生活と切り離された、あるいは遮断された場所、とも言えるのかもしれない。
プライベートでは、極力“物”に囲まれずに、解放感を求めてしまうことから、籠ることができるような空間は持っていない。
それでも、秋の夜長にいくつかの本と一緒に石窯パンなどを用意すれば、なんとなく籠って知的好奇心のままに没頭できるような気がするから不思議。一時の現実逃避なのかもしれないが、刹那の中で、読みたい本を心ゆくまで読みながら、今夜は秋の深まりを実感したい。