実はこの壁画には、モンゴル建国の英雄 チンギス・ハーンの肖像が描かれている。
四年前の冬。モンゴル国立博物館で、公開揮毫を行った。
モンゴル書道の第一人者、書家のガンバートル先生との揮毫。
もともと漢字文化圏であったモンゴルの人たちも、書を敬う気持ちは強い。国営放送の追跡取材も入っていた。
おそらくこれはモンゴル国で初の試みだろうと記者の人に言われたが、『元朝秘史』を先生はモンゴル語で、私は日本語で、同時に揮毫した。
同じ縦組みでありながら、モンゴルの書は行を左から右へ綴っていき、日本の書は右から左へと綴る。
仕事柄か、よく「日本らしさ」について考える。
これを考える時、歴史を辿っていこうとするけれど、歴史は過去だけではなく、この瞬間でもある。
“縦糸”と“横糸”によって織りなす織物に例えるなら、自国の歴史という縦糸ばかりに気をとられずに、世界という横糸にももっと意識を向けなければ。
俯瞰して捉えれば、同じ歴史を紡ぐ者同士、今を生きる者同士、奇跡的なめぐり合わせが起こっているのだから。