熊野“筆”巡礼 榊山神社

熊野“筆”巡礼 榊山神社

「文房四宝」とは、筆、墨、紙、硯のことを指す。中でも筆は、最も書作品に影響を与えるものではないかと思う。“弘法(空海)筆を選ばず”という言葉がある一方で、実際は、空海は中国より筆の製法を学び、筆選びも厳格に行っていたとされる。
書道を行わない人にはあまりピンとくる話ではないかもしれないけれど、どの筆を使うかはその書家の“書風”というものに影響を与える。逆に言えば、作品を見ればどのような筆を使っているのか推測出来る。刀と同じで、切れ味というのか、書いている時の紙を擦る音も筆によって違う。

その決め手は、“どんな種類の毛を、どんな割合でブレンドされるか”であり、それぞれの銘柄、製作工房の独自性があり、そこには門外不出の秘伝も含まれていたりする。
だから、この時代にあっても、筆作りは人の感覚というものに頼られ、オートマティックに機械で作業をまかなえる部分が少ないそうだ。

広島県の西、四方を山に囲まれた熊野町は、日本の筆生産の9割近くを担っていて、ほとんどの家が何らかしら筆作りに関わりを持っているという。

筆というのは、文字を書く為だけの道具ではない。色を塗る時にも使うし、女性の化粧道具として毎日のように使われてもいる。
昔も今も私たちが“美”を創造する上で欠かせない道具であり、もしかするとこの町の人たちがいなければ、私たちが目にしている人も景色も、色褪せているのかもしれない。

(続く)