漢字は、もともと事物を象った象形文字から始まり、中国で紀元前1,300年頃には既に存在していたとされる。
今回サンプルとして「春」という文字を書いた図版を掲載したが、書道史的には、象形文字は篆書(てんしょ)と分類される中の書体。「春」という文字の字源は、“冬の間 土の下に閉じ込められた草の根が日の光を受け、ようやく芽を出そうとしていること”※が表現されている。図版をご覧頂ければお分かりのように、まさにそんな様相をしている。篆書は、今日では印鑑で目にする機会が多い。
その後、漢字は隷書(れいしょ)という扁平型の書体へと推移する。
隷書が扁平となっているのは、まだ紙が発明される前で、文字は竹や木に記されており、竹簡や木簡に文字を書き易く記すと、自ずと文字が平たくなったためだと言われている。隷書という書体は、今日では読売新聞、朝日新聞などの新聞の題字や紙幣の日本銀行券や壱万円という文字で使用されている。
五大書体のうちで、今日もっともポピュラーなのが楷書(かいしょ)という書体であることはご承知の通り。
楷書の成立は草書(そうしょ)・行書(ぎょうしょ)より前だと多くの方は思われるだろうが、意外にも草書・行書よりも後とされている。篆書→隷書が書き崩れて→草書(前漢)・行書(後漢)となり、隷書を簡略化し形を整えながら究極的に完成した→楷書(初唐)という順。そして楷書は「活字」のもとにもなっている。活字の明朝体は、明王朝時代のものということになる。
※白川静「常用字解」/平凡社