紅辰砂(べにしんしゃ)

半年にわたった大阪・関西万博も、昨日で閉幕を迎えた。きっと今日から〝万博ロス〟を感じていく人は多いだろう。賛否はあったにせよ、ひとところに民族を越えて人々が集まり触れ合える万博は、エネルギーに満ちた特別な祭典だった。
「飽かず、惜しと思はば、千年(ちとせ)を過ぐすとも、一夜の夢の心地こそせめ」(『徒然草』)のごとく、一夜の夢のように終わってしまった万博だけど、季節はすっかり秋めいている。
美しい虫の音色に導かれながら、これからはこの秋のひとときを愉しんでいきたい。

先日、代官山の蔦屋書店で行われていた蜷川有紀さんの個展にお邪魔した。お会いするのは夏のはじめ以来。
日常的に白と黒だけのモノクロームの世界を漂泊している私にとって、有紀さんが描く真紅の世界はまったくの別世界。だけど、だからこそ、寛げて、私の心は温められる。
一汁三菜の日常はそれとして、特別な日には味覚だけではなく、視覚も存分に愉しませてくれるフランス料理の粋も味わってみたい――。有紀さんの絵を観たいと思う気持ちは、どこかそんな気分と似ている。

「生くる世の十万悪邪かなしみに似て花々の蕾ふくらむ」
私が好きな馬場あき子さんの短歌も彷彿させる、古く日本で卑弥呼が愛したという『紅辰砂(べにしんしゃ)』。その紅によって鮮烈に描かれた薔薇は、ただ華やかさだけに留まらず、花弁の深奥から官能と苦悩のあわいが漂ってきて、私はいつも惹きつけられる。

そういえば、有紀さんには『愚かな娘』という句画集があり、創作の秘密はそこにも隠されている。

    万博・フランスパビリオン参加(後編) 展示編

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