紅葉前線のニュースが聞かれる頃となりました。足元から伝わるしんとした冷たさが、秋の深まりを感じさせてくれます。
今年は、春から夏へと、まるで荒野を駆け抜ける風のように過ごしてきましたので、次の大きな作品に取りかかる前に、秋という季節を心身共にゆっくりと、贅沢に感じたいと思っていたところ、ある一日を着物を着て過ごす機会に恵まれました。
時間というのは不思議なもので、物事の効率が良ければ良いだけ、慌ただしく感じられてしまいます。そして、追い求めれば求めるほど、いつの間にか、物事の本質は遠のいていき、見失ってしまうものなのかもしれません。
先日、とある本を読んでいたら、次のようなことが書かれていました。日常生活の雑事を、いつもと変わりなく普通にこなして、一日が終わる時に何でもなかったという日が、理想的な一日であると・・・
ふと、最近観たアンソニー・ホプキンス、シャルロット・ゲンズブール、そして真田広之さんが出演している映画『最終目的地』を思い出しました。美しい田舎町の、広大な自然やその土地の風景が、心を解きほぐしてくれるのですが、何より、その中で生きる登場人物の、それぞれに流れる、一日一日の営みの美しさが、心地良い音楽と相まっていて、大変素敵な映画でした。
美しくも悩ましい人の営みの答えは、一つとして同じものなどない紅葉のようなものかもしれません。