展覧会の見どころ

短期集中連載「台北 國立故宮博物院」展

    

第六話 展覧会の見どころ

『台北 國立故宮博物院』展より、あくまで個人的な観点からですが、3点を紹介させて頂きます。

①『散氏盤』 西周時代・前9~前8世紀

私事ですが、幼少の頃、地元の習字教室に通っていた時に、先生が中国のお土産をくださり、それがこの書との出逢いでした。『散氏盤(さんしばん)』が印刷された赤いハンカチです。それは今も文鎮を包むものとして使わせて頂いています。

この『散氏盤』は、私自身、これまでに何度も臨書をしてきた古典の一つですが、銘文が記された青銅器の一つで、こうした金属に記された漢字は、「篆書体(てんしょたい)」の中でも「金文(きんぶん)」と呼ばれています。西周(せいしゅう)時代後期のもので、350字という青銅器の中でも字数の多い長文が記されています。内容的には、国同士の紛争の結果、割譲された土地の範囲についてが記されていますが、青銅器の銘文の内容の多くが、先祖祭祀や王からの勲章や辞令とする中で、これは珍しいものと言えます。古ければ古いほどに文字の資料は少なく、また文字数の多さ、内容の稀少さからも、これはとても貴重な文物です。

展覧会の見どころ/『散氏盤(さんしばん)』が印刷されたハンカチ子供の頃から愛用しています!

 

②『草書書譜巻』孫過庭(そんかてい)筆 唐時代・687年

孫過庭は若くに能書として知られ、文章もよくしたためていましたが、身分の低い貧しい出であったために、生涯下級の官職にしか就けず、最後は重い病で他界したという人物です。

書譜というのは、孫過庭による書についての書論で、六朝時代の芸術論、古人の書評から書体・技法・学書法など、書人としての経験が生かされた内容となっています。例えば、次のようなことが書かれています。

よい時期を待つよりも、よい道具を揃える方が良く、

よい道具を揃えるよりも、心の充実を会得する方が肝要である

孫過庭の筆跡は、王羲之の書を継承する草体で書かれていて評価も高く、草書の規範として、今日まで手本とされ続けています。※~8/3までの展示となります

 

③『行書黄州寒食詩巻』蘇軾筆 北宋時代・1082年

宋という時代は、それまでの唐の貴族社会に変わって、科挙(かきょ)制度が整備された時代です。学問を通して、豊かな教養を基盤とした社会が築かれました。中国書道史的には、東晋(とうしん)の時代の書聖・王羲之が書き方の規範を示した後、その書法が時代を経て、個々の精神に基づき独創性も加味されて、蘇軾(そしょく)・黄庭堅(こうていけん)・米芾(べいふつ)といった三大家が脚光を浴びた時代でした。蘇軾は科挙を経た士大夫(したいふ)官僚で、大衆に愛読されるほどの詩人でもあり、大きな影響力を持っていたので、生涯で二度の流罪を受けるなど、政治家的には不運な境遇でしたが、そうした逆境にめげず、志高く文芸に没頭したそうです。

『黄州寒食詩巻(こうしゅうかんしょくしかん)』は、その流罪で黄州(湖北省)に左遷されて三年目の、蘇軾47歳の時の詩です。詩と書ともに蘇軾の傑作と言われており、蘇軾の弟子で友人でもある、黄庭堅も「もう一度これを書かせても、これほどの作は書けないであろう」という賞賛を、跋に書きつけています。※8/5~の展示となります

いずれにしましても、中国歴代の皇帝たちが愛玩した書の名品の数々を、長い歳月を経て、ここ日本で見られることは、夢のようなことです。実際に肉眼で見てみますと、これまで捉えていた印象とは異なっていましたが、それはやはり、印刷物やデータでは、風合いというところまでは再現できないからなのだと思います。

 

ご覧頂ける場所にいらっしゃる皆さん、この週末は東京国立博物館でお過ごしになられたらいかがでしょうか。

第一話「二つの故宮」

第二話「文物への想い」

第三話「開催への道程」

第四話「人と人との絆」

第五話「漢字文化圏に生きて」

第六話「展覧会の見どころ」