先日、銀座の伊東屋で行われたトークショーに、大切な日曜日にも関わらず、ご来場くださった皆さんに感謝申し上げます。
書家の活動において、イベントと言えばほとんどが、書の公開揮毫かワークショップ。今回は筆もなく、ただお話だけで丸1時間。それも硬筆や日本語がテーマになっていたので、かしこまって喋ることになるのかなと思っていたのだけれど、ことのほか聴講席と密着型のアットホームなステージで、結果としては素の自分で喋らせて頂いた。わりとツンとしているという印象で見られがちな私。でも実際は、ブラックジョークも大好きな笑い上戸で、隙だらけのひょうきんな性格。だから、大学の講義などのように堅い話より、笑って和んでもらえるような話の方が向いているような気がする。
トークショーも無事に終わって、遅めのランチをしようと、一人食事処を探した。ちょっとした開放感もあったので隣町まで足をのばす。すると大通りの舗道に多彩なランチメニュー、値段もリーズナブルなお寿司屋さんの立て看板。「ちらし寿司」がいいなと思い、その店を探すのだけれど、大通りにはなかなか見つからない。やっと見つけたのは、路地裏の古めかしい小さなお店で、一瞬迷ったものの、恐る恐る扉を開けた。
その瞬間、年配の大将のギョロッとした目と合って、あれよあれよとカウンターに促された。席について、ちらし寿司を頼もうとしたその時、「今はアジがうまいから、アジ丼にしな」と言われ、その勢いに負けた私は「それで」と一言。緊張感が漂うカウンター越しに、大将の調理の様子を見ていると、大将は「うまいぞー、うまいぞー」と一人呟いている。そして、今度はたたみ掛けるように「まずかったら、まずいと言えば料金は要らねぇ。でも、うまかったら、うまいと言え。その時は料金を2倍おいていけ!」。小心者の私は、どぎまぎした。
ドンと目の前に置かれたアジ丼は「確かにうまい!」と心の中で思った。ただその言葉をそのまま口に出すことが出来ず、私は「“おいしい”です!」と言ってみた。よし、これならセーフかと思ったら、大将は無言・・・。やむを得ず私は「うまいです!」と言い直す。料金は2倍と覚悟して、とにかくその絶品のアジ丼を最後まで堪能することにした。
「ご馳走様でした!」。私が2倍の料金をカウンターにおいて立ち上がると、大将はこう言った。「半額でいいよ。また来てね」。
ホッと一息のつもりのランチタイムが、何故か緊張感に包まれたという、これは今週起きた私の笑い話。
それでも、おいしい江戸前寿司と、江戸っ子のおじさんとのやり取りは久しぶりに格別だった。
今日は午後からスタジオだった。密室の中、ディス・コミュニケ―ションな状態の私が何をしているのか、これについてはまたお伝えしたい。