このところ少し寒いなと思っていたが、早いもので、暦の上では立冬を迎えた。まだ秋さえ充分に楽しめていない私は、先頃、文庫版が発売になった『天地雷動』(KADOKAWA刊)を夜長に再び読んでいる。これは伊東潤さんによる歴史小説で、壮観な戦国絵巻。私は書家として、2年前に題字を書かせて頂いた。
どんな作品でも書いた本人は、後からこうすれば良かったと思い返すものだと思うが、でも過去はもう一度やり直せない。その時こそが勝負。
徳川美術館所蔵の『長篠合戦図屏風』の絵の上に。自分の書がのると事前に聞いていたので、少し気張り過ぎた感もある。書作していた時には、伊東さんが描かれた合戦の渦の中に私もいて、立ち回っていたように思う。
時間芸術とも言われているが、書作も一瞬の判断によって、書の姿は変わる。