ピエール・アレシンスキー展

先日、「鑑定士と顔のない依頼人」という映画をDVDで観た。公開時には見逃してしまったが、この作品は3年前のイタリア映画で、監督は私の好きな映画の一つ「海の上のピアニスト」のジュゼッペ・トルナトーレ。主人公は芸術作品の“鑑定士”でありながら、人間の本質を見分ける眼までは持ち合わせていなかった・・・という内容の映画で、これ以上はまだご覧でない方もいると思うので控えたい。とにかくミステリー好きにはお薦めの映画。

ところで2016年も師走を迎えようとしている中、こんな風に少し気持ちの余裕も出来たので、これも前から観たいと思っていた、東急文化村で開催中の「ピエール・アレシンスキー展」に行ってきた。
アレンシンスキーは日本の書の影響を受けたベルギー出身の抽象画の画家。実際に作品を観て考えるところがあった。

日本の書といっても、「書道」そのものというより、墨と和紙という素材、イーゼルではなく床置きによる全身で筆との一体を持って書くというスタイルや、墨の持つ偶発的な現象を取り入れるということにおいて影響を受けたということだと思われる。

また漢字のルーツである象形文字は絵文字であり、それは西洋画の中にある抽象化されたモチーフとも類似する。その近似値に気付いた、彼と同時代を生きた日本人の前衛書家たちが、絵画的な表現性を追い求めていったことも逆に理解出来た。

抽象画は、近くで観るのと離れて観るのとでは見えてくる世界が違い、鑑賞者のその時のコンディションによっても変わる。

東洋特有である“書の線質”から見出される“人格”と、西洋の“抽象世界”において見出される“何か”は同じものなのか・・・アレンシンスキーが描く絵には、日本の書に伺えるような精神美が表れているわけではない。敢えて手法の模倣にとどまっている。

彼が見出そうとした“何か”とは、もしかしたら、善も悪も含めた人間の本質なのではないかと、そんな気がした。

ピエール・アンシンスキー展

人と人の出会い

暗闇の中の煌めき

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