立秋を経て、夏は深みを増してゆく。
郷里の妹に電話をすると、花火や夏祭り、何かのイベントやらで、何だか忙しそうだった。
その電話の後、私は書道関係の所用で、東京郊外のとある住宅街へ出かけた。
電車を降り、わずかに商店が並ぶ駅前の通りに出ると、その道に通じる幾つかの小道があり、それはいずれも坂道だった。
そのうちの一つに入り、道に沿って立ち並ぶ瀟洒な住宅街を通り過ぎながら、どれくらい歩いただろうか。
夏休みのはずなのに、子供の姿はまったく見当たらず、どの家からも人の声どころか、物音一つしない。
ひっそりとした街には私一人しかいないのではないか、そんな錯覚さえ覚えた。
汗だくになり、歩き疲れて、蝉の声だけが鳴り響く小さな公園で休んでいると、犬の散歩をしている年老いた身なりの整った男性がやって来た。
もしかしたら、この住宅街は高齢者の占める割合がかなり高いのではないかと、そんな気がした。
もともと山だったところを、都市開発計画によって切り崩して整地したためか、確かに緑には恵まれているけれど、理想の住環境って何だろう・・・
そんなことを考えながら、帰りの坂道を下っていった私は、夕陽のあまりの美しさに心を奪われてしまった。
♪夕焼け小焼けで日が暮れて 山のお寺の鐘がなる
この夕焼けがいつの時代も、どこにいても変わらないことに、心は安らいでゆく。