日常の私

4月に入り、空模様は寒暖を繰り返して落ち着かない。
なかなか散ることが許されない葉桜も、心なしか戸惑っているようだ。

一寸先は闇。日常の中で、どうしようもない虚しさを抱いてしまう時、人はどうあるべきなのだろうか。そんなことを考えていた時に観た映画がある。

次の打ち合わせまでの思わぬ空白の3時間。その街のシネコンに立ち寄った。最近の映画館はほとんどが‟シネコン”だけれど、それは大抵ショッピングモールなどに併設されている。煩雑な日常生活の延長にあるようで、本当はあまり好きではない。映画を観る時くらい、非日常の中で心を解放して、ゆっくり作品と向き合っていたいから。

それはともかく。上映時間もちょうど良くて、鑑賞した映画は「ビューティフル・ボーイ」。会場にはこの映画に関するポスターやチラシなどが無く、どのような映画なのか予備知識もないままに、ジョン・レノンの曲の中でも特に好きなナンバーと同名タイトルというだけで、チケットを購入した。

結局その映画は、壮観なスペクタル・ムービーでもなければ、夢見るようなスウィート・ムービーでもなかった。
でも、日々の常に内在し、人の生に潜む光と影について考えるには、とても感慨深く、いろんな示唆を与えてくれた。
具体的な内容について語ることは避けるけれども、エンディングロールで突然流れはじめたチャールズ・ブコウスキー作「Let It Enfold You」のポエトリーリーディングは、純粋なブレスが劇場内の空気を透き通らせてゆく言霊のようだった。

生きていれば、聖者であり続けることなど誰も出来ない。新しく建てた家だって、少しずつ寂れてゆく。一点の曇りなく美しかった白肌の壁は、そのうち歪み剥がれて、腐食する。けれども、そんな日常という世界を、愛おしく感じ入ることもまた人生であることを教えてくれた映画だった。


書家 木下真理子 参考資料

    風をあつめて

    書家の筆休め

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