ギフト

宣言が解除となっても、不徹底で不安定なゆく先に、いつもとは違う夏を迎え入れる心の準備をしなければと思っているこの頃。

アートディレクターでグラフィックデザイナーの中島英樹さんから本のお贈り物を頂いた。
中島さんは坂本龍一さん、NHKのE-TV、講談社の現代新書、カルチャーマガジン「CUT」などに関わるアートワークで、クリエイティブ関係の仕事をしている人の間ではよく知られているお方。

書を通して文字の仕事に関わる私としては、タイポグラフィの第一人者でもある中島さんの作品が心の琴線に触れ、中島さんのタイポグラフィ集は持っていた。今回頂いた本は、これまでに中島さんが手掛けてこられたお仕事全般のアーカイブ集だった。

この本を拝見して、中島さんの素敵な作品を、不遜にも私の言葉で表してみたい。
***
夏のひんやりとした床に、ゆっくりと腰を下ろし、
トランジスタラジオを抱えて、お目当てを探しているとする。
デジタルな世界の奥にある、静かなやさしみ・・・。

つまみを指でひねる度に、“かさ、かさ、かさ”と立つ音。
電磁波と大気が触れ合うときの、あの質感。
それは紙にペンを立て、“ざっ、ざっ、ざっ”と書きだす音にも似た、感情と呼吸があうんを刻むときの痛み。

ちくちく、しくしく、ひりひりする心に流れ落ちる、ひとつぶの雫。
***

やっぱり、言葉にはうまく置き換えられない。
でもだから、そんなおぼろげな何かを、中島さんはデザインで、私は書で語ろうとしているのだと思う。

中島さんから声をお掛け頂いて、書のタイポグラフィ化の試みを行ったことがある。
それは海外市場に向けた日本酒のプロジェクトだったのだけれど、お声掛け頂いたとき、私はそれが何の仕事なのか知らされていなかった。

ただ指定された文言を、私なりにいろんな筆致で書いて、事務所に持参した。
それは100枚くらいあった。

その中からパッと見た印象で、良さそうなものを選んで頂こうと思った私の考えをよそに、中島さんはそれらをすべてテーブルに並べて、1枚、1枚丁寧にご覧になられ、どれひとつ同じものはない、すべての書の一点一画に注視してくださった。
作業は3時間はかかったと思う。その間、中島さんは休むことなくずっと立ちっぱなしだった。

そんな中島さんの仕事への真摯な姿勢を、私は敬愛してやまない。

雨のちくもり

月から見た世界

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